第三章 本当のあなた

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 動揺する心をなんとかいさめながら就業時間を終え、お弁当の調理をするために一度、家に戻ることにした。  お弁当の献立は任せるとのことだったので、今朝までは今日の私のお弁当と同じく焼き鮭や野菜メインのメニューにしようかと思っていたのだけれど、ふと思い立って急ぎ足でスーパーに立ち寄る。  買い出しを終えて家に着き、慌ただしく調理を始めた頃には十九時前になっていた。  昨日、百均で爽のために買ったお弁当箱。  黒いシンプルな四角い二段のお弁当箱と、小さなサラダとフルーツ用のケースが二つ。  もう何年も弟の康太とだって一緒に暮らしていないから、若い男の人がどれほどの量を食べるのか分からなかったけれど、この前、うちでもりもりご飯を食べていた爽を思い浮かべながら選んだ。  男の人用に何かを買うなんて、なんだかちょっと気恥ずかしくてそわそわしてしまった。  お弁当を保冷バッグにつめて、ふと手を止める。  ――本当に持って行って、いいんだよね。何かの冗談とか、そんなこと、ないよね。  完成したお弁当を前に急に怖くなる。  でも、あんな押し切るような形でお弁当の配達を言いつけて帰っていったんだし、ルールのメッセージだって貰ったんだもん。  きっと、大丈夫。  テレビで見た爽と私の目の前にいた彼は別人のようだったけれど、きっと彼は信用できる人だ。  泣いている私に自分の靴をくれたこと、倒れた私をここまで運んできてくれたこと、身体を心配してお弁当の配達を提案してくれたこと。  そんなことをしてくれる人が、悪い冗談なんて言うわけがない。  雑念を振り払うようにぶんぶん頭をふると、気を取り直して「今から行きます」と爽にメッセージを送ってから家を出た。
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