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爽が住んでいるのは六本木ヒルズからもほど近いタワーマンションだった。
貧乏性な私は徒歩三十分くらいであれば歩いていくことも辞さないつもりでいたのだけれど、言いつけどおり大通りに出てタクシーを拾う。
「本当に正面玄関じゃなくていいんですか?」と何度も訊いてくる運転手のおじさんに、建物裏側の地下駐車場にまわってもらうようにお願いする。
道は空いていて十分ほどでタクシーはマンションの前に着いた。
窓ガラス越しに見上げたその外観に、私は思わず息を呑む。
――た、高い。部屋番号からしてタワーマンションの高層階だとは思ったけど……すごい。
天高くそびえるという表現が相応しい大きなマンションは、窓に灯したいくつもの明かりを東京の夜空に吐き出しているようだ。
車が地下駐車場の入り口にまわり停車したので支払いを済ませ、後部座席のドアから恐る恐る降車する。
見るからに高そうな外車や高級車が並ぶ駐車スペースを、おっかなびっくり進んだ。
突き当りに小さなエントランスがあり、その自動ドアの前で爽の部屋番号とインターホンの呼び出しボタンを押す。
するとすぐにスピーカーから爽の声が聞こえてきた。
「はい」
「あ、えっと灰田です。お弁当を届けにきました」
「今開ける」
慣れない環境のせいか、短く答えたその声にドキッと心臓が鳴動する。
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