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ゴールドに縁取られたガラス張りの自動ドアが左右に開く。
ドアの奥のエレベーターに乗り込むと、どういう仕掛けなのか勝手に爽の部屋がある二十九階のボタンが点灯し、私を上層階へと運び始めた。
二十九階って、どれくらいの高さなんだろう。
会社のオフィスが十五階だから、その倍近い。
ぐんっと身体のなかが一瞬持ちあがる感覚がして、私はなんとなくお弁当の入った保冷バッグを胸の前で抱えなおした。
緊張したのも束の間、ポーンという到着を知らせる音とともに、すぐにエレベーターの扉が開く。
「わぁ……」
廊下に一歩踏み出しながら、私は思わずそんな風に声を漏らしていた。
高い天井、グレーの大理石のような床、廊下とは思えない広い空間。
――なにこれ、ホテルみたい。これが家だなんて。
生まれてこの方、こんな高級マンションに足を踏み入れたことはない。
私はおずおずと廊下を進み、その中ほどで爽の部屋を見付けた。
「よぉ」
インターホンを押すと、すぐに玄関ドアが開いた。
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