第三章 本当のあなた

13/23

367人が本棚に入れています
本棚に追加
/245ページ
 爽がTシャツとスウェットパンツ姿でナイキのラバーサンダルをつっかけ、上半身だけこちらに乗り出して片手でドアを押し開けている。  リラックスウェア風ではあるものの、Tシャツの胸にはばっちりハイブランドのロゴが踊る。  気安いかんじに笑いかけられて、昼間、テレビで見た歌い踊る爽を思い出してしまう。  名は体を表すと言うけれど、その名の通り爽やかな好青年風のカラストの都築 爽。  この片眉を上げる笑い方といい、ぶっきらぼうでいて年相応の親みやすさを醸す目の前の彼とは、まるで別人みたいだ。  それなのに明るい瞳の色はテレビで見たのと同じで、やっぱり彼はアイドルなのだと不思議な気持ちにさせられた。   「こんばんは」 「おう。入れよ」  挨拶をしながらお弁当の袋を差し出しかけて、爽の言葉と、更に大きく開かれたドアにぎょっとする。 「ここで大丈夫だよ? お弁当渡したら帰るつもりだったし」 「ん? なに、この後、なんか予定あんの?」 「ないけど……」 「そしたら食っちゃうからあがって待ってろよ。次のために弁当箱、持って帰った方がいいだろ?」 「そうだけど、でも」 「いいからいいから」  爽に手首を掴まれて引き寄せられたかと思うと、あっという間に私は玄関の中にいた。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

367人が本棚に入れています
本棚に追加