第一章 ティファニーの魔法

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 そんな時、私はいつもここに来た。  まだ幼かった頃、おばあちゃんの部屋に並ぶ古い洋画のVHSやDVDをこっそり見たことがある。  なかでも『ローマの休日』や『ティファニーで朝食を』はオードリーヘップバーンの可憐さや劇中のどことなくオシャレな雰囲気に心を奪われた。  あの頃はストーリーの意味もほとんど分かっていなかったけれど、高校生の頃、おばあちゃんが亡くなって形見分けにそのDVDをもらった。  久しぶりに再生される画面のなかのオードリーはやっぱり可愛くて、綺麗で。  でもそれだけじゃなく、あの頃より確実に私の胸のうちに大きな意味を残した。 『ティファニーで朝食を』のオードリー演じる主人公、ホリーは自由奔放に男性に頼りながら生きている。  けれど本当は彼女なりの不安を抱えていて、開店前のティファニーのショーウィンドウを眺めながらパンとコーヒーを食す。  彼女の中でティファニーは心の拠り所で、不安な時は日常を忘れるためにそこを訪れるのだと言う。  誰しもが少なからず不安を抱えながら生きている。  大なり小なり必ず。  あれから、私にとってもホリーのようにティファニーはひとつの心の拠り所になった。  まだ家がこんなことになる前、ハタチの誕生日にはお父さんとお母さんがティファニーでネックレスをプレゼントしてくれた。  それは今でも私の宝物で、どれだけお金がなくても絶対に手放さないと決めている。
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