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ルームフレグランスの甘い香りがふわりと香る。
外の廊下と同じくらい高い天井にダークベージュのつやつやのフローリング。
観念して「おじゃまします」と小さくつぶやくと、爽は手を離してさっさと廊下の奥に歩き出した。
慌ててパンプスを脱いで痩せ身なのに男性らしさを感じる広い背中についていく。
左右に二つずつドアの並ぶ廊下のつきあたり、すりガラスが中央に入ったフローリングと同色のドアが開いている。
その先にレースの薄いカーテン越しに、都会の夜に大きく口を開けた掃き出し窓が目に入って、私は思わず足を止めた。
――すごい。綺麗……。
橙色に灯りをともした東京タワー。
六本木や赤羽橋を歩いていれば東京タワーはいつだってすぐ近くに見える。
だけどこんなにそばで、こんなに高い場所から見たことはない。
「なにしてんの?」
「あ、ごめん。東京タワー、すごいなって」
「そうか?」
肩越しに振り向いた爽の口角が片側だけ上がる。
ほら、やっぱりテレビで見た好青年スマイルとは全然違う。
ドアの中に入っていく爽に私も続いた。
部屋の中は二十畳弱くらいのリビングダイニングで、大画面のテレビとローテーブル、革張りでふかふかそうなソファーの他は、物も少なくすっきりと片付いていた。
夜景も含め、スタイリッシュな空間に見惚れてしまう。
そんな私に構わずに、爽はソファーにどかっと腰をおろした。
「めちゃくちゃ腹減ったー」
彼の唇から洩れる気の抜けたような声。
そうだ、ぼーっとしてる場合じゃない。
私はいそいそと爽の目の前にあるローテーブルの向かい側に膝をつく。
私の体重を受け止める毛足の長いカーペットの柔らかな感触。
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