第三章 本当のあなた

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 なんで、そんなこと言うの。  強引に靴を履かせたり、お弁当の配達を提案してきたのは爽じゃない。  お母さん思いで、出会ったばかりの私を気にかけてくれて……ぶっきらぼうだけど、強引だけど、優しい人だって、良い人だって思ってたのに。  気づいた時には大きな声が口をついて出ていた。 「はぁ? どんだけ自意識過剰なのよ! 確かに俺のファン? とか言われた時はナルシストか! って思ったけど、ありえないから! 私、まったくテレビも見ないし、本当に今日まで爽がアイドルグループのメンバーだなんて知らなかったの! それになによ! お弁当のことだって爽が言い出したんじゃない! ひどいよ! 今日、たまたまテレビで見て……忙しいだろうし踊ったりするなら体力消耗するだろうなって……こういう仕事だから家庭の味に飢えて、私みたいな貧乏人の料理を食べたいって言ったのかなって……だから……だから! スタミナがつくようにって、わざわざ献立変えてお肉にしたのに! 爽の馬鹿!」  一息にこれだけのことを怒鳴って、私ははぁはぁと肩で息をした。  爽は私の剣幕に面食らったのか、大きく見開いた瞳を何度もしばたいている。  部屋に沈黙が落ちる。  爽を信じ始めていた自分が、ひどく惨めに思えた。
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