第三章 本当のあなた

19/23

367人が本棚に入れています
本棚に追加
/245ページ
「帰るね。ちゃんと連絡先も消すから安心して。もうあなたとは関わらないから」  荷物を持って廊下へのドアを出る。  気が付くと視界がぼやけていて、ちょっと涙ぐんでしまっていたことが分かった。  ひどいことを言われたからなのか、そういう目的だったと一方的に誤解されたからなのか、一時でも良いやつだなんて思ってしまったことが悔しいのか、理由は自分でもよく分からなかった。 「待て!」  爽が駆け寄ってくる気配がして、大きな手が私の腕を掴んだ。  玄関へ踏み出そうとしていた足が止まる。  その腕を振り払う気力ももうない。  私は爽に泣きそうな顔を見られたくなくて、振り返らずに前を向いたまま、玄関ドアをじっと見つめた。 「悪い。ごめん。今言ったこと、撤回する。だからちょっと待て」  ――なによ、急に手のひら返して。  そんな簡単に謝れるくらいなら、最初から言わなきゃいいのに。  一度、口から出た言葉は簡単に取り消せるわけないじゃない。  あんなにひどいことを言っておいて突然謝ってくる爽に、戸惑いを隠せなかった。  たくさん言い返したけど、まだ怒りはふつふつと胸の中で煮え立っていて、おさまりそうもない。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

367人が本棚に入れています
本棚に追加