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「なぁ、こっち向けよ」
「……嫌。もう私の顔なんて見たくないでしょ」
「ごめん」
「謝ってもらわなくていい。誤解されたままでいい。もう爽とは会わないから、それでいいでしょ」
「それじゃあ俺が嫌だって。本当に悪かった」
きゅっと力がこもる爽の長い指から伝わる体温。手を放してくれる気配はない。
さっきまでの冷たい声が嘘みたいに、彼の声は切実で、本当に申し訳なく思っているように聞こえる。
こんなに謝ってるんだから、少しくらい話を聞いてもいいのかな、なんて思えてきてしまうのは、やっぱりお人好しのお父さんの血を引いているからか。
……いつまでもこうしているわけにもいかないし。
しばらく無言の抵抗を続けてみるけれど、そのうちにだいぶ気持ちも落ち着いてきて、私はひとつため息をついた。
ゆっくり爽を振り向くと、気まずそうにしながらも爽が私を真っ直ぐに見つめていて。
その瞳にはまたちゃんと体温を感じられる色が戻ってきていた。
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