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お金持ちでも芸能人でも、貧乏人とはまた形の違う苦労があるんだ。
それにぶっきらぼうで強引な人が、こんなに真剣に謝ってくれている。
「まぁ、なんだ……その……アイドルって知ってからも利用しようとするんじゃなくて、身体のことを考えてくれたのは……うん、嬉しかった」
「え」
「だから……ありがとな」
頭をかきながら歯切れ悪く、照れくさそうにそんなことを言って、爽がそそくさとリビングの中に入っていく。
明るい髪からのぞく耳が、燃えるように赤い。
「ねぇ、今、嬉しかったって、ありがとうって言った?」
――嬉しかったって、ほんと?
口元が勝手にほころんでしまう。
私が怒鳴るように言い返したあの言葉から、ちゃんと爽のことを考えて献立を決めたことを汲み取ってくれたんだ。
爽を追ってリビングに戻ると、顔を真っ赤にした彼がこっちを睨んでいた。
「……言ってない」
「言ったじゃん!」
「言ってねぇって! お前、なんだその顔! さっきまでめちゃくちゃ怒ってたくせに! ニヤニヤすんな!」
「してませんー」
「してんだろ!」
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