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すっかり冷たくなった特売のインスタントコーヒーを飲みながら、ぼんやりとティファニーを眺める。
私にはホリーのように支援してくれる男性もいないし、自由に生きることもできない。
だけど憧れのこのお店だけは、私からほんのひと時でも日常を切り離し、不安を拭ってくれた。
頑張って働いて、いつかは人を羨まずに生きていけるようになりたい。
いつか、自分でティファニーのアクセサリーを買えるように、きっと。
少しずつ、落ち込んで暗くよどんでいた気持ちが晴れ間を見せ始めた。
店の入り口に据え付けられた時計の短針が十一時を指そうとしていた。
そろそろ日常に戻らないと。
家の最寄り駅までの電車だってなくなるし、くよくよしていても明日はやってくる。いつも通り、朝八時半には仕事が始まるんだ。
ふぅ、と一つ息をついて、私は重い腰を上げた。
よし、明日も頑張ろう。
心の中で気合を入れて駅に向かって一歩足を踏み出した、その時だった。
「きゃっ」
「わっ」
ドンッと誰かに勢いよくぶつかられ、大きくバランスを崩した。
ヒールがアスファルトを嫌なかんじの感触を残し、滑る。
何が起きたか理解した時にはアスファルトに尻もちをついていた。
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