第四章 もうひとつの出会い

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 ――雨、まだ降ってなくてよかった。  部長がこんな風に言ってくれたくらいだ。  そうとう疲れた顔をしていたんだろう。  生温くて湿気た風が頬をなでる。 「お、先客」  休憩室へと続くドアが開く音とともに、落ち着いた低い声がして私は我に返った。  そちらに視線を向けると、ガラス戸からベランダに降りる、背の高い男性。  ――あ、この人……確か、佐々岡さんが言ってた……寺西さんだっけ。 「お疲れ様です」 「お疲れ様」  小さく会釈すると、寺西さんが柔らかく微笑んだ。  涼しげな眼をしているのに、ちょっと目尻が下がったたれ目がクールなようにも人懐っこいようにも見える。  今日は紫の光沢のあるネクタイにグレーにストライプの入ったベストをぴしっと着こなしていて、まくった袖から血管のうく男らしい腕がのぞいている。  たしかにとんでもなくモテるんだろうな……かっこいいもん。  メディアに取り上げられたり、モデルの仕事もしているという佐々岡さんの情報にも納得だ。  寺西さんはスタバのアイスコーヒーをすすりながら、私の隣に立った。
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