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――雨、まだ降ってなくてよかった。
部長がこんな風に言ってくれたくらいだ。
そうとう疲れた顔をしていたんだろう。
生温くて湿気た風が頬をなでる。
「お、先客」
休憩室へと続くドアが開く音とともに、落ち着いた低い声がして私は我に返った。
そちらに視線を向けると、ガラス戸からベランダに降りる、背の高い男性。
――あ、この人……確か、佐々岡さんが言ってた……寺西さんだっけ。
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
小さく会釈すると、寺西さんが柔らかく微笑んだ。
涼しげな眼をしているのに、ちょっと目尻が下がったたれ目がクールなようにも人懐っこいようにも見える。
今日は紫の光沢のあるネクタイにグレーにストライプの入ったベストをぴしっと着こなしていて、まくった袖から血管のうく男らしい腕がのぞいている。
たしかにとんでもなくモテるんだろうな……かっこいいもん。
メディアに取り上げられたり、モデルの仕事もしているという佐々岡さんの情報にも納得だ。
寺西さんはスタバのアイスコーヒーをすすりながら、私の隣に立った。
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