第四章 もうひとつの出会い

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 柵に肘をついて、私を覗き込むように首をかしげる。 「なんか疲れてそうだけど大丈夫?」 「え」 「顔に書いてある。ここから逃げ出したいって」  ぎょっとして、思わず自分の頬をぺたぺたと触って確かめてしまう。  そんなことをしても分かるわけないし、部長に気を遣われるくらいには疲労が顔に出ていたとは思うけれど。  ーーここから逃げ出したいって。  どうして分かったんだろう。  私はさっき、まさにそんな風に思っていた。  正社員でない自分。  正社員の柚木さんの態度。  貧乏な自分。  家族への仕送り。  家族を放り出したいわけじゃないのに、そう思ってしまう自分が余計に嫌で……悪い人間みたいに思えて。  苦いコーヒーを飲み下しながら、ふと「ここから逃げ出したい」という言葉が頭に浮かんでいた。 「どうして分かるんですか?」  私の問いかけにも、寺西さんはゆるく、優しく口角をあげたままだ。
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