第四章 もうひとつの出会い

4/22

367人が本棚に入れています
本棚に追加
/245ページ
「んー、どうしてかなぁ。大事な社員のことだから、なんて言ってみようか」  そう言ってくすっと笑った寺西さんがコーヒーに口をつける。  ――あ、そうか、寺西さん、社長の息子……御曹司ってやつだもんね。  佐々岡さんの話だと、敢えて副社長とか重役にはついてないって話だったけど。  従業員のことは気にかけてるってことなのかな。  でも……。 「正社員じゃないですけどね」 「ん?」 「社員は社員でも、私、契約社員なんです。逃げ出したいって思ったのは、それもあって」  相手は社長の息子だ。  不用意な発言は控えるべきなのに、寺西さんの醸し出す穏やかで緩やかな空気と、私に積もり積もった疲労が唇を動かす。  寺西さんも相好を崩さずに、私の話を促すように頷いた。 「どうして?」 「契約社員は契約更新してもらえるかどうか怯えながら仕事をしてるのに、正社員ってことにあぐらをかいて失敗を平然と繰り返す人もいて。それでも彼女は周りが尻ぬぐいすればノーダメージだし、何か大きな問題を起こすか本人が退職を願い出ない限りは、来年も再来年も普通に正社員としての立場は変わることなく働き続ける。なんか、ものすごく、不公平だなって」 「なるほど、ね……。君、名前は?」 「生産部の灰田美羽です」 「美羽ちゃんか」
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

367人が本棚に入れています
本棚に追加