371人が本棚に入れています
本棚に追加
寺西さんの柔らかな声が、私の名前を呼ぶ。
ーー不思議。
佐々岡さんに遊び人だと聞いていたからだろうか、苗字で呼ばれるよりもファーストネームで呼ばれることがとても自然に感じた。
「美羽ちゃんは正社員の面接を受けなかったの?」
そう問いかけられて、私はお父さんの借金のことを家庭の事情と濁しながら、契約社員になった経緯をかいつまんで説明した。
「そうか。うちは大卒しか正社員はとってないんだったっけ。それは美羽ちゃんも辛い思いをしたね」
「いえ……契約社員としてでも雇用していただけたこと、本当に感謝しています」
実際、ここで働くことができていなかったら、どうやって家族に仕送りしていたか想像ができない。
高層ビル群の隙間から仰ぎ見る空を、私の気持ちに似た黒い雨雲がすごい早さで流れていった。
「もし今後、正社員になれるチャンスがあれば挑戦するといい。美羽ちゃんは契約社員かもしれないけど、後輩のフォローができるほどしっかり働いてきたんだろう。君はもっと評価されるべきだし、そういう人間こそ正社員として、うちの会社を支えてほしい」
最初のコメントを投稿しよう!