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咄嗟についた手のひらとお尻がジンジン痛い。
顔を上げると背の高いキャップをかぶった男性が両手いっぱいにブランドショップの紙袋を抱え、目を真ん丸くして私を見下ろしていた。
視線がぶつかって、お互いにハッとする。
慌てて立ち上がろうとすると足首に鈍い痛みが走った。
「いたたた……」
「……すみませんでした」
男性は硬い声で呟くように謝ると、キャップのつばを目深に引いて、軽く会釈して足早に歩き出した。
その態度にモヤモヤしながら足に力を込めると、初めてそこで履いていたパンプスのヒールが折れていることに気付いた。
そこで今日の課長の顔とか、柚木さんのこととか、お母さんの声とか、色んな、ティファニーで軽くなったはずのものが一気に脳裏をかけめぐって、私の鼻の奥をツンとさせた。
ぽきりと折れたヒールと一緒に私の心もとうとうポキリと折れて、視界が涙で歪んだ。
「なんで、なんで……ぐすっ、なんで、こんなについてないのよぉ……!」
涙がこんこんと両目の淵から湧き出して、私はその場に座り込んだまま子供のように声をあげて泣いた。
溢れ出した雫は幾筋も頬を伝い、顎からスカートに落下して水玉模様を作る。
私の声に気付いたのか、数歩進んだところで先ほどの男性が立ち止まって、こっちを振り向いた。
こんな見ず知らずの人に泣き声を聞かれてしまう。
きっと、みっともない変な女だと思われていることだろう。
自分でも情けないと思う。
だけど、もう今日は無理。
限界だ。
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