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「ぷはっ」
突然、爽が吹き出して、彼の気配が離れていく。
強く力が入ってしまっていたまぶたを恐る恐る開けると、爽が大笑いしながらソファーにかけてあったTシャツに腕を通すところだった。
「な、なに……」
「キスされると思っただろ? そんなことするわけねぇだろ」
顔が更に熱くなる。
ま、まさか……。
「今度、撮影で壁ドンしなきゃいけねぇんだよな。俺、アイドルなのにそういうの苦手でさー。今のは、その練習」
「れ、れ、練習って! 絶対からかいたかっただけでしょ?!」
「マジで仕事でやんだよ。いいじゃねぇか、壁ドンくらい」
「それならせめて一言言ってからやってよね! これじゃぁふざけてるようにしか……」
「まぁまぁ、芸能人はドッキリにかけられるもんだぜ? そんなに怒んなよ」
「私は爽と違って一般人だから! 無理です!」
――まったく。照れ屋のくせに、こういうことするのは平気なんだから。
でもさっきまでの爽は、確かにいつもの爽とは全然違った。
アイドルとして表情を変えられるのは、さすがというかなんというか。
恥ずかしくて穴があったら入りたい気持ちで叫んだものの、お金をいただいている以上、お弁当を出さないわけにもいかず。
私はぶつぶつと文句を言いながら、テーブルの上にお弁当を広げた。
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