第四章 もうひとつの出会い

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「その時、初めての彼氏ができたばっかりだったの。ずっと片思いしてた先輩だったんだけどね。大学中退が決まって、私もそんな問題を一人で抱え込むことができなくて、それでつい、話しちゃったんだよね。お父さんの借金のこと……」 「それで?」  もう四年近くも前のことなのに、胸の奥が針で刺されたようにちょっと痛んだ。  あぁ、やっぱりこんな話、情けないよな。 「フラれちゃった」  無理して笑って見せるけど、自分でもうまく笑顔を作れていないことが分かる。  たぶんきっと、ぎこちなくて、カッコ悪い、情けない笑み。  本当に最悪な失恋の思い出。 「そんなに借金があるなんて最悪だって。私と恋人でいることで迷惑をかけられたくないって。まさか弱音吐いて、そんな風に嫌われると思ってなかったから……私、馬鹿みたい。それから、私は恋愛なんかしちゃいけないんだー、私なんかが誰かと付き合ったりしたら迷惑になるんだーって、勝手にね、恋愛禁止にしてきたの。……ごめんね、仕事で、応援してくれるファンのために、失望させないようにって恋愛禁止にしてる爽に話すようなことじゃないよね」  気付けば途中から早口になって、あの時の彼氏の表情とか自分の惨めさを思い出していた。  ――借金なんてどうにかなるよ、大丈夫だよって、俺がついてるよって、ただ言ってもらいたかっただけなのにな。
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