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なんで私なの。
どうして私ばかり、こんなについてないんだろう。
「ぐすっ……ひくっ……うぅ……どうして……ぐすん」
すると男性が「あー! もう!」と苛立たしげに呟いたかと思うと、頭をかきながら辺りを見回した。
数十メートル先にいくつか人影が見える以外、私たちの周囲には誰もいない。
彼は深いため息をついて、ずんずんと大股で戻ってきた。
未だ冷たいアスファルトの上から動けずにいる私の前で立ち止まる。
その場にぞんざいに投げ出される紙袋たち。
「大丈夫ですか? もし怪我してるようだったら、タクシー呼ぶんで病院に」
ひねってしまった足は痛むけれど、たぶん大きな怪我はない。
ふるふると首を横に振って、突然戻ってきた彼を見上げる。
深くかぶった黒いキャップの下で、はっきりした二重まぶたに収まった明るい色の瞳が私を見ている。
高く通った鼻梁。綺麗な顔……年は私と同じくらいか。
まさか立ち去った彼が戻ってくるだなんて思わなかったから、驚いて涙が引っ込んでいく。
「立てますか?」
そう言われて、ヒールの折れた靴に目がいく。
これだって、先週買ったばかりだった。
三ヶ月間、お弁当のおかずを一品我慢してやっと手が届いた二千円のパンプスだったんだ。
ついてない。本当に、ついてない。
またウルウルと視界が涙で揺れ始める。
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