第五章 二人きりのベランダ同好会

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「寺西さん。お疲れ様です。って、苦労人って」 「あはは、ごめんごめん。一生懸命な美羽ちゃんって呼んだ方がいいか」  この人は何日も前に一度会っただけの私の名前や、話した内容までちゃんと覚えてるのか。  さすが、遊び人だけじゃなくて仕事ができると言われるだけのことはある。 「はい、どうぞ」  感心しているとコーヒーの缶を差し出された。 「え」 「いいから」  穏やかに微笑みながら、遠慮する私の手をごく自然な動作でそっと持ち上げて缶コーヒーを握らせる。  女性の手を触ることになんの躊躇も感じない。  寺西さんがするとそれすらスマートで気遣いのある行為に感じるから不思議だ。  手のひらにひんやりと固い感触が伝わってくる。 「ありがとうございます……」 「どういたしまして。休憩室の入り口から美羽ちゃんがベランダに出るのが見えてね。俺もおんなじのにしてみた」  寺西さんが私の右手のなかにある缶と同じコーヒーの缶を振って見せた。 「で、今日は何をお悩みなのかな、美羽ちゃんは」 「え、なんですか?」 「なんだかまた暗い顔をしてるから。大丈夫?」  優しい眼差しで私の顔を覗き込んで、寺西さんが笑った。  やっぱり寺西さんはすごい。モテる理由が分かる。  それにこの穏やかで落ち着いた雰囲気。  なんでも話してしまいそうになるんだよなぁ。
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