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「美羽ちゃんの連絡を待ち焦がれて、ようやくまた会えたしね。悩み事でもなんでも、話せるなら大歓迎だ」
「なんですか、それ」
口ごもった私におどけた調子で寺西さんがそんなことを言うから、思わず笑ってしまった。
冗談めかしているとはいえ、キザなセリフさえ様になる。
そこでふと、恋愛経験豊富な寺西さんになら、爽への気持ちを相談してみてもいいかもしれないと思い至った。
私が一人抱え込んで思い悩んだところで、どうにかなるようなことでもない。
「私、馬鹿みたいなんです」
「ん?」
「少し前に私なんかとはすごく遠い世界で暮らす人に出会ったんですけど、なんか、ちょっと……意識、しちゃってるみたいで。もし、万が一、その人を好きになったとしても気持ちが通い合うことなんて絶対ないのに。もうね、全然、本当に全然、住む世界も仕事も立場も何もかも、違うんです。そんな相手のことを意識しちゃうなんておかしいですよね」
ちゃんと考えれば出会って間もない、しかも勤務先の社長の息子に恋愛相談なんて変だ。
こんな恋愛にも至らない、自分でも何言ってんだろうと思うような話。
恥ずかしさもあって、笑いながら早口で一気に言い切ってしまうと、缶コーヒーのプルタブを押し上げてぐいっとコーヒーを流し込んだ。
冷たいコーヒーは今の私の気持ちみたいに苦い。
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