第一章 ティファニーの魔法

9/14

365人が本棚に入れています
本棚に追加
/245ページ
「あー、靴……」  気まずそうな声が降ってくる。  高くて、よく通る声。   「弁償します。いくらですか?」 「そ、そんな」 「いいです。俺のせいだし。二万円くらいですか?」 「に、二万?!」  実際の十倍の値段が提示された驚きで、また涙が引っ込んで思わず小さく叫んでしまう。  私の表情の変化に、彼は訝しげに眉をひそめた。 「違いました? じゃあ、いくらですか?」 「……」  私のパンプスの向こうに地面に置かれたブランドショップの紙袋が見える。  見上げた彼の胸元でも、たぶんハイブランドものであろうネックレスが揺れていた。  彼はきっと私の住む世界とは別の世界で暮らしているんだろう。  この整った容姿で、お金持ちとか人生イージーモードだ。  だからきっと、こんな一般的に見たら安物のパンプスにすら、二万円かなんて聞いてくる。  二千円のパンプスが普通の世界に暮らしていないから。  そんなことを思うと途端に自分がまた惨めに感じて、本当の値段を言うのがはばかられた。  情けなくて恥ずかしくて、たまらない。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

365人が本棚に入れています
本棚に追加