第五章 二人きりのベランダ同好会

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「ちょっと、灰田さん! 寺西さんと知り合いだったなら教えてくださいよ!」 「ご、ごめん。つい最近、たまたまあそこで会って」 「それならそうと報告してください! 情報は少しでも多くないと」 「じょ、情報?」 「そうですよ! 同じ会社だからなのか、なかなかデートしてもらえなくて。バーでしか会えないし、いまいち踏み込めないんです。まだまだ攻略途中なので何か情報があったら教えてもらわないと」 「そ、そんな情報ってほどの話はしてないよー」  たじたじになっている私を佐々岡さんはしばらくジトっとした目で見てきたけれど、「まぁいいや。じゃあ、これから私に協力してくださいね! 私、寺西さんのこと、本気なんで」と鼻息荒く宣言して満足気に頷いた。    それからも頭の中は爽でいっぱいで、ふとした瞬間に私に向けた笑顔やテレビで見た女の子と笑い合う姿を思い出しては振り払おうと試みるのだけれど、その度に寺西さんの「それが恋だ」という言葉が響いた。  もし仮にこれが恋だとして、そんな無謀な恋、叶わないことが前提の恋、してもいいのかな……。  気付くとそんなことを考えてしまっていて、私は何度もため息をついた。  ――ううん、やっぱり恋なんかじゃない。  こんなに住む世界が違う、私とは遠い人、好きになんてなるわけがない。  そう、半ば自分に言い聞かせるようにして、私は意識をできるだけ仕事に集中させた。
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