第六章 ステージの上の王子様

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 そっか、爽は母子家庭で育ったんだもんね。  今はアイドルでキラキラした世界にいるけれど、お母さんが病気をしたことがあったり、案外苦労をしてきたのかもしれない。   「じゃあ、このあと仕事あるから行くわ」 「え、ほんと?」  ――買い物のためだけに来てくれたってこと? 「あぁ。さっき言ってた生姜焼き、楽しみにしてる。よろしくな」 「……ありがとう。明日、届けるね」 「おう」  なんで買い物くらいで、わざわざ来てくれたんだろう……。  考えないように、意識しないように頑張っているのに、今日のことにも何か特別な意味を見出してしまいそうになって、私はひとり、ため息をついた。  その週の金曜日の午後、いつも通り仕事をしていると生産部のオフィスに寺西さんがやってきた。  普段、この部署を広報部の社員、ましてや社長の息子である寺西さんが訪れることなんてないので、一瞬社員たちに緊張が走る。  隣の佐々岡さんだけがつぶらな瞳を輝かせていた。
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