第六章 ステージの上の王子様

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「で、他のメンバーは自分の仕事で手一杯だし、急に求人を出すわけにもいかなくてね。そこで美羽ちゃんのことが頭に浮かんだんだ。こっちでうまいことやってくれたら、正社員登用できないか人事にかけあってみるよ」 「ほ、ほんとですか?!」 「うん」 「でも、そんなことしていただいていいんでしょうか? 社長の息子が私情で……なんて言われたら申し訳なくて……」 「だから、ちゃんと頑張ってくれたらね。生産部の部長に聞いたら仕事はしっかりやってくれてたって言われたよ。美羽ちゃんの話を聞いただけでやってるわけじゃないから」  正社員と契約社員との差をこれまで痛いほど感じてきて、ずっと正社員になりたいと思っていた。  だからこんなチャンス、願ったり叶ったりなんだけど……。  いまいち納得できずにいると、寺西さんが微笑みながら私の肩を叩いた。 「まぁ、あんまり考えすぎなくていいよ。とりあえずは俺のお手伝いってことで」 「はぁ……」 「はい、とりあえず初仕事だ。これから客先に挨拶に行くから、一緒においで」  すっかり寺西さんのペースに巻き込まれて、あれよあれよと気付けば二人でタクシーに乗っていた。
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