第六章 ステージの上の王子様

6/21
前へ
/245ページ
次へ
 こうなれば、やるしかない。  とにかく寺西さんの言うように、これは臨時のお手伝いということで自分を納得させる。  バッグの中で震えたスマホを見ると、佐々岡さんから『説明求む!』とメッセージ。  隣でシートに背中を預ける寺西さんの涼しげな横顔が、車窓の外を流れていく景色を眺めている。  私の視線に気づいて、こちらを向いて首を傾げた。 「落ち着いた?」 「ちょっとずつ……」 「それは良かった。じゃあ、これからよろしく」 「よろしくお願いします」  ふわりと柔らかく微笑まれる。  ーー寺西さん、ホントにかっこいいなぁ……。  こんな私にも良くしてくれるし、これで仕事もできてモデルもしてるなんて、天は二物を与えずなんて嘘だ。  私はそんなことを考えながら、いつの間にか高速道路を走り始めたタクシーの窓の外に視線を向けた。  それから三十分後。  タクシーを降りた私はあんぐりと口を開けたまま、その場に立ち尽くすことになった。 「ここって……」 「新神奈川アリーナ。来たことあった?」 「いえ……」
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

367人が本棚に入れています
本棚に追加