インタビュー·ウィズ·アサシン

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 緊張が走る。  ICレコーダーの使用は既に先方から許可を頂いているから大丈夫。  約束の時間まであともう少しだ。  目の前にあるグラスの中の水を一気に空にしてしまうぐらい喉の乾きを感じている。  あぁ、今からでも逃げ出したい衝動に駆られている。  何故なら、今からインタビューする相手は、俗に言う暗殺者だからだ。  なんでこんなありえない展開に、この僕が身を投じているのか、まだ時間があるので簡単に説明したい。  気になることや知らないことをどんどん吸収したいという好奇心と書き物好きが高じて、今の新聞記者という職業に辿り着いた。  入社一年目の僕は主に担当地域に関する記事を書いている。新しく開店した店の紹介や、行事の取材。たまにくる購読者からの投書を元に取材して記事を書くことがあるが本当にたまにだ。  編集長からは、のんびり記事もいいがもっと差し迫った内容があると嬉しいんだかなと小言を言われてるが、元々割り当てられた担当地域が平和だからそれ以上のものが書けないのが正直なところだ。  だがそんな日常をぶっ壊すきっかけとなったのが、たまに送られてくる購読者からの投書だった。 「ガッハッハッ! おまえこれやってみないか?」  編集長が投書の中身を読むなり高笑いして、それを僕に渡した。みたからに子供の文字だ。 《からすさんのことがしりたいです》 「からすさん? あの黒い鳥ですよね?」 「違う違う。(からす)は暗殺者だ」 「は?」  頭がここ暫く平和すぎて、編集長の口から出てきた物騒なワードに正直絶句した。  主に昼の街しか取材していなかった俺は、夜の街を暗躍する者のことなど知る由もなかった。  えーと、さすがにこの件はヤバいでしょ。 「噂の暗殺者にインタビューなんて記事書いてみろよ、バカ売れするぞ!」  でも、どうやってその暗殺者にコンタクト取るんですか? 無理ですよ。 「ひょっとしたら、情報屋に聞けば分かるかもしれねぇな」  編集長は胸ポケットから携帯を取り出して、アドレス帳から情報屋に電話をかけた。  なんと、そのまま例の暗殺者とインタビューできるアポを情報屋が取り付けてくれた親切心を、これ程までに恨んだことはない。    怖えよ。  深い夜に、怪しげなバーでインタビューだなんて、無事に帰れる自信が湧かない。  約束の時間より五分遅れて、そいつは店のドアを開けてやって来た。  意外にも若い男だ。  黒い髪、全身が黒を基調とした服に覆われ、一歩こちらに踏み込むことに近づく威圧感に耐えきれず、グラスの水で少し喉を(うるお)した。  そもそも、暗殺者相手に丸腰で来てるよ僕。  
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