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常連客が集う怪しげなバーの中で、唯一挙動不審に座っている僕を、彼からすぐに見つけてくれた。
どうこちらから声を掛けようか迷っていたのでそれはそれで助かった。
椅子を引いて、鴉と呼ばれる男はテーブルを挟んだ席に座った。
第一声がなかなか出ない僕だが、無意識に名刺を取り出す動作が自然とできていた。
その間になんとか呼吸を整えて、
「初めまして。わたくしデイリーニュースペーパーの地域部の記者をしている田所と申します。本日は、お忙しい中インタビューを受けてくださりありがとうございます」
鴉が受け取った名刺に印字された名前を興味深く読んでいる隙に、彼の顔を拝んだ。
伸びすぎてる前髪のせいで全体像は分からないが、髪の間から覗く切れ長の目つきをみるにおそらく端正な顔立ちだろう。
「俺の事を記事にするって、マジな話?」
鴉は笑みを含んだ言い方で、名刺をテーブルに置いた。
「はい。大真面目な話です」
「へぇ。どういうコーナーに、こんな俺の記事を載せるんだよ?」
「地域面ではありますが、『みんなの気になるに答えます』コーナーに掲載します」
「フフッ。ライトなコーナーが台無しになっちまうな」
僕の返事に、鴉はついに吹き出した。
二人の間に置かれたICレコーダーをスイッチを押して、やっと彼のインタビューが始まる。
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