コーヒーみたいな夜

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 どうしてこんなときに、姉のことを思い出してしまうのだろう。いや、むしろこんなときだからこそ、思い出してしまうのだろうか。ふと、たったいま彼が閉め切ったカーテンをもう一度見やった。なんとなくだけど、隙間が空いていたのは、姉がわたしたちを覗き見ていたから? そんな考えが頭をよぎった。  ……ごめんね、お姉ちゃん。こころの中で頭を下げた。わたしが彼につけこんだの。赦してだなんて、虫のいいことは言わない。だからお願い、このひとをちょうだい。一緒に地獄まで堕ちていくから。 ***  彼が姉のために空けておいた左手の薬指をわたしに明け渡してくれる日は、いったいいつになることだろう。明日かもしれないし、一年後かもしれない。もしかしたら一生訪れることはないのかもしれない。  でも、ほんのわずかな望みがあるのなら。そのときが来るまで、わたしは溺れる。蒸らしすぎてひどく苦い、コーヒーみたいな夜に。                 Fin.
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