コーヒーみたいな夜

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 星空を見上げる夜は、姉がマグボトルにブラックコーヒーを入れて持ってきて、眠気覚ましにしていた。わたしはコーヒーが苦手で飲まなかったが、彼は「苦い」と文句を言いながら、ときおり姉からもらっていた。  その日、わたしは一度寝てしまったあとでたまたま目を覚ました。寝相が悪かったのか姉と彼に挟まれていたはずのわたしはレジャーシートの片端に寄っていて、寝返りをうつとふたりの隣り合って座る背中が見えた。ひと言ふた言何かを囁き合っている。姉がマグボトルからコーヒーを注いで飲んだあと、ふいに彼が姉との距離をなくした。ふたつだったシルエットがひとつに溶けた。 「苦い」 「うん、苦いね」  わたしは思わず目を逸らして、もう姉と彼のほうに顔を向けられないと思った。見上げた空で、わたしは牡牛座の一等星アルデバランを探した。オリオン座の一等星ベテルギウスと競い合うように輝く星。しかし、わたしは水分を含んでぼやけた視界でそれを見つけることはできなかった。
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