コーヒーみたいな夜

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 米を研ぐ。米の色が溶け出した水を捨て、新たな水ですすぐ。それを何度か繰り返し、釜に研いだ米ときれいな水をセットしたら、スイッチオン。あとは炊けるのを待つばかりだ。  まだ時間はたっぷりある。貰いものの紫キャベツでマリネでもつくろうか。冷蔵庫で保存すれば日が保つし、きっと彼にも食べてもらえるだろう。  葉がぎっしり詰まった紫キャベツは葉牡丹を思わせて、幼いころ庭のプランターに植えていたのを蹴っては母に叱られた記憶がよみがえる。そんなとき、姉はいつも一緒になって謝ってくれた。猫みたいな目が笑うと細くなって目尻にしわが寄って、わたしとは全然似ていなかった。  星を見るのが好きなひとだった。幼馴染みの彼を含めて三人で、よく地面に寝転がって夜空を眺めた。右に姉、左に彼。川の字の中心になったわたしは上機嫌で、夜なのにつないだ両手をぶんぶん振ってはしゃいだ。そのまま寝てしまって、彼がわたしを負ぶって連れ帰ってくれたこともある。  そのころから、わたしはずっと彼のことが好きだった。
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