1 一期一会

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さっき紗良が見渡した時には、無人だったのに、いつの間にか少し先に車が1台停まって、テントが張られてる。ホワイト・スノウというアウトドアでは有名なブランドのテントだ。 女性のキャンパーを増やしたブランドと言ってもいい。これまでは機能性ばかりに重きを置いていたキャンプ用品に、デザイン性と使い易さを重視した商品をいくつも作り出し、更にはそれを駅前の直営店とか家族で行くショッピングセンターなどで販売した。 値段は若干お高くても、おしゃれなキャンプ道具は、女性の心を掴み、一気に人気に火がついた。 グリーンのテントにプリントされた雪の結晶のマークを、紗良はしばらくじっと見つめていた。 「気になるの?」 行動が余りに不審だったため、男に聞かれてしまった。100円ライターを貸しただけなのに、一緒に食事をしないかと誘ってくれた優しい人。そういえば、まだ名前も聞いていない。 「あ、ゴメン。このブランド好きだから、つい気になっちゃって。ホワイト・スノウだよね?」 雪の結晶を模したというテントのロゴマークを紗良は指差す。 スキレットでハンバーグを焼いていた男は、少しだけ嬉しそうな表情を見せた――ような気がした。 今、ハンバーグを焼いてるバーナーも同じブランドのものだし、よく見たら彼が腰掛けてる椅子も、雪の結晶マークが入ってる。 よっぽどホワイト・スノウのファンらしい。 「名前、聞いていい?」 紗良が尋ねると、男は視線を上げて、紗良を見る。紗良も男をまじまじと見つめた。 きりっとした弧を描く眉。一重瞼だが、目は大きく、精悍な顔立ちだ。背も高く、立ち居振る舞いも堂々としていて、自信に満ち溢れている。軟派な感じは少しもなく男らしい。女性よりも男性が憧れるタイプのイケメンかもしれない。 「新名透人。君は?」 「紗良。北条紗良」
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