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「寒くない?」
大判のブランケットにふたりで肩を寄せ合ってくるまった。テントの中では薪ストーブの赤い炎がちらちらと燃えている。薪ストーブは荷物になるし、寒ければホテル利用も…なんて考えていたけれど、持ってきて正解だった。
長野とまでいかずとも、夜は冷え込むし、それに、今この状況で、場所を移したくない。
煙突付きのドームテントの中で、外には人影もなく物音もしない。この世に自分たちしかいないんじゃないかと思えるくらいの、この静寂と孤独感が透人は好きだ。だからこそ、モノ好きと白い目で見られながらも、せっせと冬にキャンプに行くのだが。
「何から話せばいんだろう」
緊張してる自分に気が付いて、透人は少し自嘲する。
「何でもいいよ、透人の話、何でも聞きたい」
立てた膝の上に小さな頭をのっけて、小首を傾げて透人を見る紗良は本当に可愛くて、失いたくないと切に願ってしまう。
透人の正体を知ったら、紗良が自分に向ける笑顔も変質するのかな…。そんな惧れを抱きながら、透人はゆっくりと息を吐き出して話し始めた。
「このテント…ホワイトスノウのものなんだけど…」
「うん、知ってる! ファミリーサイズの大型ドームテントだよね。うちの店にもディスプレイしてあるよ」
「紗良はさ、僕が持ってるキャンプ用品がほとんど同じメーカーのものって気づいてた?」
「ホワイトスノウの多いよね。真尋さんが店長やってるからかなって思ってた」
「真尋のその店長も…あの若さでありえないんだよね。本来は」
「そうなの?」
回りくどい透人の話に紗良は疑問を挟んだ。
「うん…実はさ…俺と真尋はホワイトスノウの創業者の息子なんだ」
喉がからからになって、なのに、手汗はぐっしょりだ。こんなに緊張したことって、本当に大学入試の面接の時以来かもしれない。
「え、スゴイ! 透人、将来社長になるの?」
「あ、それはどうかわからないけど…」
紗良の態度は飽くまでも普段と変わらず無邪気で、もしかしてホワイトスノウとThreeTriangleの因縁を知らないのかと思えてくる。
祖父の北条礼一郎は孫に、そういった生々しい話はしなかったのかもしれない。
「それで…君の祖父の会社、ThreeTriangleを廃業に追い込んだのも、ホワイトスノウなんだ。君からすべてを奪ったのは僕の親族で、僕はそれを知っていながら、今日まで君に黙っていた。本当に申し訳ない」
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