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言って、透人は深く頭を下げた。紗良が何か言葉を発するまでは顔を上げないつもりだった。誠意を見せたいというのもあるけれど、何より怖い。
「…それって透人が謝らないといけないことなの?」
けれどすぐに、紗良の疑問が飛んできて、透人はパッと顔を上げる。
「え?」
「おじいちゃんの会社がなくなっちゃったのは残念だけど、もうずっと前のことだよ? 透人のせいじゃないよね」
「……」
「それに透人は紗良にいろんなものくれたよ。あったかいベッドとか、おいしいごはんとか。今こうして紗良が笑っていられるの、全部透人のお陰だよ?」
紗良の言葉は寛大で明快で、ともすれば考えすぎていた自分がばかみたいに思えてくる。うっかりすれば泣きそうで、透人は必死に心を冷静に保とうとする。
「でも…」
「透人は紗良にとって神様みたいな人なの。だから嫌いになったりしない」
真っ直ぐに言ってのける紗良は可愛すぎて天使みたいなんですけど、それは。
やばい、本当に涙が滲んで、透人は慌てて頬杖をついて、眦を抑えてごまかす。…カッコ悪いったらありゃしない。
「…ありがと…」
「透人大好き。この気持ちに気が付いてから、カレンダー見るのが怖くなった。毎日毎日楽しくて…、だから一日が終わるごとにカウントダウンが始まってるみたいで、透人と一緒にいられるのは、あと何日…って毎日数えてた」
「……」
透人は寧ろ早く一年が終わってほしいと願っていた。この気持ちが爆発しないうちに早く、過ぎ去ってほしい。我ながら呆れる事なかれ主義だ。
「あ、いつまでも透人の家に居座るために、好きって言ってるんじゃないよ?」
「わかってるよ。いつまでも一緒にいて?」
自分だってとっくに紗良のいない生活なんてかんがえられなくなっていた。
「透人に他に好きな人が出来たら、いつでも言ってね。すぐに出てくから」
「大丈夫、そんな日は来ない――」
紗良の腕をつかんで自分の側に引き寄せる。ストーブの炎に熱せられたせいか、触れた紗良の髪は熱を持ってる。金色の鮮やかな髪に軽く口づけてから、肩をそっと抱き寄せた。
ふたりだけのこの空間が終わらなければいい、透人はそう願いながら、ずっとストーブの炎を見つめてた。
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