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普段は冷静な人だと知ってる。相手の気持ちを無視した行動は決してとらない人だ。だからこそ、自分に向けられた情熱が嬉しかった。
「紗良もがっつきたい。もっと――もっとしてほしいよ、透人」
「煽んないでよ」
言いながら、透人は再び紗良にキスをしてくる。舌を絡めあい、唾液を交換する。ぴったりと隙間ないくらい抱き合ってても、それでもまだ物足りない。それは透人も同じだったのだろう。
一瞬キスが止んだと思ったら、膝裏に手を入れられて、横抱きに抱きあげられた。壊れ物でも扱ってるみたいに優しくベッドに降ろされる。
「嫌なら言って? あ、シャワー浴びる?」
最終確認してくるのが、本当に透人らしくて、こんなシーンなのに、なんだかおかしさがこみ上げてくる。
帰りがけに、走っていてたまたま目にして、紗良が「行きたい!」とわがままを言った日帰り温泉に寄って来たから、キャンプの埃や、煤の匂いは取れてるはずだ。だから今はこのまま、情熱の赴くまま、溺れていきたい。
「嫌なんかじゃない。紗良も透人と同じ気持ち」
ちゅ、っと紗良から透人にキスをしてから、紗良は着ていたもこもこのニットを自ら脱ぎ捨てた。
がっつくなんて言いながら、透人の触れ方はとても優しく、紗良の身体を丹念に解きほぐしていく。火が着くまでに時間はかかるが、一度燃え始めたら、いつまでも辺りを輝かせ、温める――焚き火の炎のような愛され方だった。
こんなに時間を掛けて抱き合ったことはないし、何度も絶頂が訪れたこともない。そして、終わった後も、透人は宝物みたいに紗良の身体を抱きしめていた。いつか眠りに落ちてしまった後も――。
昨夜のことを思い出すと、それだけで頬が熱くなり、顔がにやけてしまう。透人がまだ起きてこなくて良かったと思ってしまう。
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