1 読まれなかった手紙

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1 読まれなかった手紙

 整理していた書棚から、ぽとりと、四角いものが落ちる。  床に落ちたそれは、すっかり色褪せてしまった、小さな封筒。宛先も、差出人の名も、判別できなくなってしまっている。だが、手作りらしく少し歪んだその封筒の形だけで、記憶は刺激された。……あいつがくれた、手紙。  躊躇いながらもそっと、床に落ちたその封筒を拾い上げる。  この封筒の封を破り、中の手紙を読んでいたならば。そう考え、首を横に振る。いや、あいつの幸せは、俺の幸せとは違う。孤独だった俺を気遣ってくれた、優しいあいつは、俺がいなくても幸せになれる。だから。  手の中の封筒を、そっと横に投げる。  薄汚れてしまった封筒は、書棚側のくず入れにすとんと、収まった。
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