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エピソード 5
あれから何事もなく月日が流れ、2年ぶりにあの懐かしい地を訪れていた。
今回は家出ではなく、ちゃんとした視察だ。
秘書も部下も連れず一人だった。
ここへはどうしても一人で来たかったのだ。
あの日のように綺麗な景色を眺める。
あの日とは違って行き交う人の表情が明るい気がする。
俺がやったことは間違いではなかったと分かる。
この場所で側にキミがいないのはやはり寂しいな。
俺は思わず俯いた。
「おじさん、手助けが必要?何か、困ってるんでしょう?」
その声に顔を上げると、あの日より少しだけ成長した青年が立っていて、穏やかに微笑んでいる。
そしてあの日と同じセリフを続ける。
「おじさん、もしかして具合が悪い?俺ん家すぐそこだからそこで休む?それとも病院へ…」
俺は涙が出るのも構わずその青年を、花音を抱きしめていた。
「―――――花音っ」
「タカシさん…っ。何も言わないで消えちゃうなんてっ俺怒ってるんだからね?」
「―――悪かった…」
「タカシさん、家の事とか街の事、ありがとう……。でも…黙っていなくならないで…っ。タカシさんが家に来るのが無理なら俺がタカシさんの家に行くよ?だから、二度と離さないで?好きなんだタカシさん。お願い」
キミを手に入れてもいいのだろうか?
俺の元に来てもキミはキミのまま笑っていられるのだろうか?
キミは後悔しないだろうか?
口には出さなかったが俺の不安な気持ちが表情に出ていたのだろう。
花音はしっかりと俺の目を見て言った。
「俺、タカシさんの側にいられるなら何でもいいよ?一緒にいられないほうが辛いんだ。だから―――」
「あぁ、あぁ、ずっと一緒にいよう。愛してる花音。キミを一生離さない」
俺の家出で俺の周りにも少しだけど変化はあったし、俺自身も愛する人を得る事ができた。
心から愛するキミの側にいられるなら、この世の全てを愛しいと思える気がするよ。
俺の世界はキラキラと輝いている。
-終-
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