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仕事が終わり二階にあがると、花音は俺の方を見てもじもじとして何か言いたそうにしていた。
「どうかしたか?」
「お風呂…一緒に入ろ?背中流してあげる」
「そうか、頼む」
これはそういうお誘いか?と一瞬思ったが、すぐに違うとわかった。
やはり花音は俺の事を『父親』と重ねているようだ。
俺には親子の情というものはわからないが、これが多分そうなのだろう。
赤い顔をしているが、行動にいやらしさは全くない。
花音の瞳は愛情に溢れている。
熱が籠っているような気もするがそれは多分俺の願望が見せた幻想。
かつて求めたのかもすら分からない。手に入る事のなかった愛情。
他人からこんなに簡単に向けられた愛情。
一緒に風呂に入り同じ布団で眠る。
誰かと同じ布団で眠るなんてことは今まで一度もなかった。
他者の温もりは気持ちいいが、これではないのだ。
花音から向けられるのは別の愛情がいい。
38にもなって今更親子の情などというものに興味はない。
どうすれば俺の一番欲しい愛情をもらう事ができる?
なぁ、花音教えてくれ。
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