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エピソード 2
おじい様の営業計画は結論から言うとうまくいった。
俺がホールに出る時間を決めた事で、所謂住み分けができたのだ。
それによってこれまでのお客もゆったりと過ごす事ができ、俺目当てのお客も俺を堪能できた。
俺は短期集中で客単価を上げる努力をするだけでよかったので、何の苦労もなかった。
お客には無理にお金を使わされたと思わせる事なく、自然に喜んで財布の紐を緩くさせた。
それでお客も幸せになれるのだからWINxWINの関係が成り立つ。
花音にはなぜか「タカシさんってホストになった方がいいんじゃない?」と拗ねたように睨まれてしまったが、まったく意味が分からない。
こうやって売上も順調にのび、毎夕訪れる子どもたちの食事代も気にならない程になっていた。
このままやっていけば古く傷んできた所を修繕したりもできそうだ。
そう思っていた矢先、望まない来訪者があった。
その日は日曜日で、花音もホールに出て働いていた。
男たちから守るようにさりげなく花音の前に立つ。
背後で花音が緊張しているのを感じた。
黒いシャツに黒いスーツ金のネックレスの男たち。
男たちは視線でお客を威圧している。
お客は次々と出て行き、残されたのは男たちと俺とおじいさまと花音のみ。
「じいさん、そろそろ考えてくれたー?この辺再開発するんだわー。何もただでとは言ってないよねー?お金は充分払うからさっさと立ち退いてくれない?」
「おら、欲かくと痛い目みんぞっ」
「売るつもりはない。帰ってくれ…っ」
おじい様は勇敢にもそう言ってのけたが、このままでは怪我をしてしまうかもしれない。
俺は一度振り向き背後にいる花音を見た。
花音の瞳には怒りと恐怖の色がが浮かんでいたが安心させるようににっこりと微笑むと少しだけ色が薄まって見えた。
「いい子だ」花音にだけ聞こえるように小さく呟き男たちの方に向き直った。
カツンカツンとわざと大きな靴音をたてて男たちの前に出た。
ゆっくりと威厳を持って。
「お客様、他のお客様のご迷惑になりますので、すみやかにお引き取り願います」
他のお客なんて逃げてしまって今はいないが、にっこりと笑い拒否する事は認めないという空気でその場を支配する。
男たちはたじろぎ、「また来る」とだけ言い残して帰って行った。
「―――どういう事ですか?」
青い顔をしたおじい様が言うには、この辺一帯を再開発という名目で無理な買い取りが行われているという事だ。
複数の強面が訪れ威圧し、嫌がらせをする。
その繰り返しに今ではこの店と数軒だけが残り、ほぼ買い取りが終わっているそうだ。
男たちが去り際に言ったように、またすぐにでもやってくるだろう。
嫌がらせによってお客も来なくなるかもしれない。
いや、確実にそうなる。
「ふむ…」
俺が家に戻ればここいら一帯なんてどうとでもなる。
花音は俺の側まで来て俺の手をぎゅっと握った。
不安に揺れる瞳。
初めて自分からこんなにも求めた唯一のモノ。
たとえ手に入らないとしても側にいられるだけでいいと思っていた。
―――――花音…。
繋いだ手が温かくて、なんだか悲しくなった。
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