3月22日(月)花祭り余り宮

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 多津乃湖駅のホームは、3日前に降り立った時と違い、桃の花びらに彩られてピンク色に染まっていた。 「智樹、髪の毛に花びらついてる」 「え、どこ?」  智樹が頭をぱっと払う。 「ちげーよ、反対。こっちだって──」  思わず伸ばした右手が、智樹の髪に触れそうになり──圭志は指を引っ込めた。 「どこだよ」  その時、電車が入って来た。  一陣の風が、ひゅうと吹き抜ける。 「……取れた」  智樹の髪についた桃の花びらは、ひらり、と風がさらっていった。  電車の中は、人がまばらに座っていた。  ゆっくりと発進する電車の窓から、圭志と智樹は外を眺める。  桃の花が、はらはらと散っている。 「あ」  智樹が、何かを見つけて声を上げた。 「あれ、神主さんじゃない?」 「え、どこ?」  智樹の指の先、湖水浴場になっている湖岸を少し行ったところ、遊歩道の桃の枝が張り出した下に、神主が立っていた。 「……ほんとだ。あれ? 一緒にいるの、みあちゃんじゃね?」  ここに来た日と翌日の祭りで遭遇した『みあちゃん』が、女の子を連れて立っている。  神主は、ふらふらと歩み寄るとその場にがくりと膝をつき、覆い被さるようにして女の子を抱きしめた。腕の隙間から、赤い着物が見える。 「………」  側に、金髪の男性が寄り添うように立っている。  電車は徐々にスピードを上げ、流れる景色はすぐに見えなくなった。 「……智樹、お面つけた方がよくない?」 「えっ、いやだよ」 「俺、智樹がお嫁に取られたら泣くよ?」 「何言ってんの」  窓の外、雄大な多津乃湖の穏やかな湖面は、昼下がりの太陽にキラキラと輝いている。  湖に降り注ぐように、桃の花が、はらはらと舞っていた。               (おわり)
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