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マナーハンターの曲がり角
僕とヒロキは、高凸町のトレーラーハウスで今後の方針を会議している。
本州は7月に入り、猛烈な暑さに見舞われているが、北海道は夏場も割と快適に過ごせる。薄手であれば長袖でも過ごせないことはないが、他言すると「北海道の夏は思っているよりも普通の夏だよ」なんて、地元の北海道民から反論されそうな気がする。
「俺はもう反社会的勢力の排除に直接乗り出さなきゃいけないと思っている」
僕とヒロキは恋人同士のように、同じソファに並んで座り、お互いの目を見つめ合って対話する。
互いに長袖のワイシャツに黒のジーンズ姿。
情熱に燃えるヒロキの目が爛々と煌めいている。
少年と大人が入り混じる黒い瞳。
素敵だ。
「詐欺を事前に食い止めるだけで十分じゃない?」
「いや、不十分だ」
『マナーハンターは正義の使徒だ』
ヒロキはそう考えている。
ヒロキの考えていることだから、僕には全部分かるに決まっている。
「俺達が始末している受け子や出し子なんて、金に困って反社会的勢力に利用されている被害者でもあるんだ」
「そうだろうけど」
僕は右手で口元を抑える仕草を見せ、少し俯いてヒロキに語る。
「でも、いよいよそれじゃあ”マナーハンター”って看板も怪しくなってくる。もう僕達がやっていることって自警団か闇の仕事人だよ」
「ブレてるって言いたいの?」
僕を問い詰めるヒロキの顔に視線を向ける。正義感が空回りする激情的で真剣な眼差し、興奮から上下動する左右の肩の動き。
僕はヒロキの全てが好きだ。
「ブレてるだけなら問題ない。だけど反社会的勢力ってことは、言い換えればヤクザや暴力団って呼ばれる類の連中だろ? そんなの僕達二人だけで何とか出来るレベルを超えてるよ。命が危ない」
「大丈夫さ」
ヒロキが僕を安心させようとしているのを感じる。
ヒロキは僕から目線を逸らして、天井を見た。
「じゃあ、北海道のヤクザを狙うのはよそう」
「危険を避けるため?」
「それもあるけど、北海道に来て分かったでしょ。この地の経済は崩壊している。詐欺で騙し取れる金を持っている人も少ない感じだ」
「確かに」
「詐欺被害の中心は、やっぱり富裕層が集中している東京だって思うでしょ」
「体感的にね」
「出稼ぎに行く感覚で今まで通りやってみようよ」
「でも受け子や出し子を捕まえるのとはわけが違う。相手はヤクザだぜ?」
僕がヒロキに首を上げて問うと、ヒロキも僕の目を見た。
「大丈夫さ、ヤクザを全滅させる良い手段がある」
「何だい?」
「放火だよ」
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