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マナーハンターの拠点
「広いなぁ!」
デニムに紺色のパーカー姿のヒロキが、100坪の更地の中心で両腕を広げる。
僕も同じ衣装。
ヒロキの笑顔を眺めるだけで、僕は嬉しい。
「凄くない!? 坪単価1万だぜ。100万円で丁度100坪」
「東京じゃこんな広い土地は絶対に手に入らない」
ヒロキは俺の左手を右手で引っ張り、僕を招き入れる。
「だけど、北海道の冬は寒いよ」
「トレーラーハウスが寒冷地仕様だから大丈夫だ」
「じゃあ、いよいよ拠点になるのか」
「そうだ」
ヒロキは僕と一緒に更地の中心に来ると、身振り手振りで未来を語った。
「まず、此処の更地をアスファルトで舗装して駐車場にする」
「北海道の人は自分の土地があるから、月極駐車場なんて流行らないでしょ」
「いや、最後まで聞け。駐車場として使うのは俺達が空港へ行き来するための一台分のスペースだけで良い」
「じゃあ、残りは?」
「爆薬を埋める」
僕は目を見開いた。
「爆薬だって?」
「そうだ」
「またどうして?」
ヒロキは大真面目だ。
「痴漢警察はあの1回で打ち止めになっただろ?」
「話題になり過ぎたね」
「しかし、マナーハンターは続けなきゃいけない」
「あの痴漢、殺さなきゃ良かったかな?」
「何言ってんだ。殺人なら警察と法務省に死刑を任せりゃ良い。けれど軽い罪の犯罪者は俺達の税金でのうのうと刑務所で養われていくんだぜ?」
「確かに」
「だから俺達マナーハンターが殺人犯以外の犯罪者を始末しなければならない」
「それと爆薬の何の関係があるの?」
僕が訊くと、ヒロキは北海道の美味しい空気を深呼吸した後、語り出す。
「俺達のやっていることは、いずれ警察にもバレるだろう」
「だろうね」
「此処は俺達の最後の隠れ家になる」
「警察に取り囲まれたら?」
「アスファルトに埋め込んだダイナマイトを起爆させて返り討ちにする」
「自殺するための爆弾にならなきゃ良いけど……」
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