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 それから一ヵ月後の休み時間。  隣で窓から空を見ている、夕影君の声は低くなっていた。身長も以前より、五センチ近くは伸びてるだろう。男らしくなっていた。  まだ何か言う男子もいるようだけれど、夕影君は相手にしないようにしたみたいだ。ま、人生いろいろある。これからも、頑張れよ、夕影君! 「あれ? 美月さん、何か言った? 頑張れって聞こえたような……」  私は信じられない気持ちで夕影君を見た。  何だって? そんな、まさか。  頭で否定をしていたそのとき、鳥が鳴きながら飛んでいくのが見えた。雨が降る、としきりに教えてくれている。傘持ってきていないなあと思っていると、隣で夕影君が首をかしげていた。 「僕、耳がおかしいのかな。こんなに天気がいいのに、雨が降るって声が聞こえるんだ」  ――え? 「あのさ、夕影君」  私はそう言って、試しに花瓶を持ってきた。 「ま、馬鹿馬鹿しく思うのはわかるんだけど……」  私が言い終わらないうちに、夕影君の表情は変わっていった。 「嘘だ。『私を見て』って言ってる……。  え? どうしたの、美月さん。頭抱え込んで」  私の力が微かに移ってる?  私はポンと夕影君の肩に手を置いた。 「これからも苦労するとは思うけど、お互い頑張ろう」 「え? 何言ってんの。美月さん?」  夕影君の声を背に、私は何だか可笑しくなってくすくすと笑ってしまった。今までの自分が馬鹿らしくなっていた。  夕影君のことで人間も捨てたもんじゃないと思うようになった。私は夕影君に関わらないようにしているクラスメイトたちをどこかで軽蔑していた。苛めをしているのと同じだと。けれど。  夕影君に心で頑張れコールを送っている人にどうして今まで気が付かなかったんだろう。怖くて何もできない。でも、心配している生徒がいる。夕影君のために心を痛めているのだ。とても小さい声。私は聞き逃していた。いや、人間の声自体をまともに聞こうとしていなかったのかもしれない。  そうだね。確かに、人間はずるくて汚いところがある。でもそれでも何とかしようと思っている人もいる。前向きに生きようとしている人だっている。  私は? 私は命を、生きていることを無駄にしていた。絶望することで諦めていた。一番最低なことだ。  人と違う力がある? 別にいいじゃないか。それどころか、困っている夕影君のような人の声を聞けるんだから、ラッキーだ。役に立てないと悩むだけでは本当に役に立てなくなってしまう。力がある分、私は人よりできることが増えると思わなければ。  少しでもいいではないか。それでも役に立つと言うのなら。気づいてよかった。夕影君のおかげだな。  しかし……。問題は夕影君の力だ。夕影君にどうして力が移ったのかはわからない。もしかしたら、人間誰でも持っている力で、それが覚醒しただけかもしれない。でも……。  私は考える。みんなが「声」を聞けるようになったら……。  ――それは私のように苦痛を伴うかも知れないけれど。でも。   私は明るい未来を見た気がして微笑んだ。                                                    了
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