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2
教室はうるさいから嫌いだ。たくさんの複雑な声で、頭痛が酷くなる。
自然と教室へ向かう足取りは重くなった。ああ、眩暈がする。
「っ!」
教室のドアの前で人とぶつかってしまった。顔を上げると気遣う目があった。
色白で、綺麗な目をした、そこらの女子などよりずっと可愛い男子。
そういえばこの顔は見たことがある。確か……夕影君だっけ?
――大丈夫かなあ。えーっと、どうしよう。何か声をかけるべきだよね――
夕影の心の声が聞こえてくる。まだこんな子もいたんだ。少し嬉しくなって、私は微笑んだ。
「大丈夫よ」
「よ、よかったあ。ごめんね。
あの、具合の方はもういいの?」
声変わり前の高い声。
「あまりよくないけど、いつものことだから」
「そっか……。お大事に」
「ありがと」
私の言葉に夕影君は笑って教室を出て行った。
私は静かに窓側の一番前の自分の席に着いた。
前にある余った机の上には、花が飾ってあった。担任の実家が花屋なので、よく持ってくるのだ。私はその花へ手を伸ばした。蕾の花。もう少しで開くころかな。
――咲きたい、咲きたいわ!――
うずうずしている蕾の声が聞こえてくる。何の花かは知らない。早く咲けばいいなと思って触れると、花が開いてしまった。幸い誰も見ていないようだし、まあいいか。
私の力はまだまだ未知数で、自分でももてあましている。他にどんな力があるのだろう。今のは成長の促進かな?
人間も花のように素直だといいのに。
そんなことを思いながら、退屈な授業を受けて、終了と同時に教室を出た。学校なんかに長居は無用。私は走るように学校の門をくぐって、帰路を急いだ。
途中、公園の横を通ると、犬が飛び出してきた。体中の毛はぼさぼさで、足には怪我をしていた。
どうして捨てるのに飼うのだろう。
「お前は何もしていないのにね。ごめんね。でも私もお前を飼うことはできないんだ」
私は弁当の残りをあげたあと、犬の怪我している後ろ足に手を当てた。花を開かせることができたのだ。回復を促すことだって成長を促すことと同じ原理に違いない。きっとできるはず。
案の定、傷はふさがっていった。
――ありがとう――
犬の声が聞こえた。嬉しそうに走っていくその姿を見て、私は情けなくなった。私は礼を言われるようなことはしていない。もっと。もっと何かできたら……!
悔しかった。私はどうして中途半端に生まれてきたのだろう。毎日繰り返される疑問。こんなのはもう嫌だ。
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