Aからあなたへ

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Aからあなたへ

「えっ? 白崎さん、クリスマスの予定ないんですかー?」  彼女は心底驚いたように、もしくは少し小馬鹿にしたように、化粧に彩られた大きな目を丸くしてそういった。 「今のところは……。そのぶんだと、田中さんはあるみたいだな?」  すると彼女――田中望愛(たなかのあ)は、得意気に口元を緩めた。 「まあ、そうですねえ。――一年に一回の大切な日なので」  大切な日、ねえ。別にキリスト教信者でもないだろうに、という言葉は口にできるはずもない。 「ちゃんといい人、見つけたほうがいいですよ~。仕事ばっかりじゃなくて」  わかったようにいう。責任の軽い派遣の事務員に、得意気に仕事を語られるのは少々むかついた。  この田中望愛には、この社内に交際中の相手がいるのだという噂がある。あくまで噂だが、信憑性は高いらしい。だからこその上から目線なのだろう。 「では、そういうことで。お先に失礼しまーす」  彼女はバッグを肩に掛けると、笑顔を振りまきながら足早に部屋を出ていった。 「じゃあな白崎。お疲れさん」  同じ部署の同僚であり隣のデスクの須川(すがわ)も、挨拶もそこそこに去って行く。周りも終業準備をする者が大多数だ。  今日は週末の金曜日。俺もさっさと帰ってしまおう。  週末の夜は、社会人にとってはささやかな楽しみの時間なのである。  そして――。  このときの俺にはまだ――後に訪れるトンデモな出会いのことなど、まったく予想できるはずもなかった。
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