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俺達は携帯を持てない。スマホなどの外部と繋がれるようなツールは、俺達には必要ないと判断されている。だからこそ、の手紙なのだろう。ふっと通り過ぎようとすると、不意に呼び止められる。
「西岡」
振り向くと、そこには田島がいる。息を切らして、走って来たのが分かった。どうしてこの教師は、こんなにも俺に構うのだろう。一体、俺をどうしたいのだろう。
「…」
無言でいると、田島は悲痛な表情で言う。
「お前、そんなにさぼってばっかりだと、単位落とすぞ。そしたらなあ、この学校にはいられない。ここを出てお前が行くところっていったら、お水の世界になっちまうぞ」
「別に、俺はそれでもいい」
「自分を大事にしろよ、頼む」
俺は舌打ちする。
「大事に?アンタらこそ俺達Ωを大事にしてねーだろ。しかも、この世界にαとΩしかいねえ、みたいな言い方しやがる。教師っていっても大したことねー、アンタなんて」
そういった瞬間、自分が横から殴られ、吹っ飛ばされる。何だか分からず、俺は目を見開いた。
「西岡先輩。それ以上は俺が許さねえ」
堀が俺を殴った犯人だった。それを、田島が必死で止めていた。
「瞬輝、やめろ」
田島は堀を名前で呼んだ。
「もう一度田島先生のこと馬鹿にする、ていうなら、俺はアンタを死ぬまで殴ります」
口元を拭って、俺は立ち上がった。
「上等だ」
自分が笑っているのが分かる。こんなに血がたぎるのは久しぶりだ。
「瞬輝、西岡、もういい、やめてくれ。俺はこんな事を望んじゃいない。別に俺にとってはαもΩも、そしてβも、皆平等だ。特別扱いしている気はない。分かってくれ、この学校が狂ってきているんだ」
「どういう…ことだ」
俺は教師の話を真剣に聞いていた。
「この学校は昔経営難になり、学校の存続を掛けて、問題行動のあるΩを呼び寄せ教育する機関になったんだ。しかし、今の方針は少し狂ってきている気がする。徐々に蝕まれている、αの狂気に」
「ふーん。でもそれは田島先生が謝る事じゃない」
堀が俺を殴った拳を反対側の手で撫でる。
「西岡…俺はお前が不憫でしょうがない。俺にできることがあったら…なんでもしてやりたいんだ」
俺は言う。
「なんで俺にそんなに関わる?別に俺がここから出て行こうがどうしようがアンタには関係ないだろう」
「それは…俺の個人的理由だ」
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