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そう思うと自分が不憫で、でもここに居るすべての奴がそうだと思うと、少しだけ気分は和らぐのだった。
「西岡君、だったね」
授業が終わった後、声を掛けられる。ここでは俺は全くと言っていい程人と関わっていない。以前からきっと近寄れない雰囲気はあっただろうが、ここでの比ではない、と思う。人が嫌いだ、というバリアのようなものを張っている俺にとって、声を掛けてくる人物は奇特でしかなかった。
「お前、誰」
ぶっきらぼうに答えて、話しかけて来た相手を見る。その男は眼光鋭く、薄い色素の髪の毛をしている。聡明そうな顔立ちで、はきはきと話す様子が如何にも優等生、といった面持ちだった。
「僕は学級委員長の北原。もし困ったことがあったら僕に何でも聞いてくれ」
ふうん、と興味がなさそうに言うと、北原と名乗ったそいつはクスクスと笑いだした。
「面白い人だね、西岡君は」
「別に。フツーこんなもんだろ」
「いや、中々いないよ、君みたいなタイプのΩは」
「そりゃあどうも」
「別に褒めたんじゃないよ。あんまり授業に遅れてこない方が身のためだよ」
お前に関係ねえ、と俺が突っぱねる。北原はまあまあ、となだめた。
「後々分かると思うけど、そういう態度は身を滅ぼす。君の為にはならないよ、絶対。覚えておくといい」
「こちとらお前みてェな優等生と違うんでな。忠告はありがたく頂いとくぜ」
自分で言ったものの、不快な気持ちになったのだろう、北原は眉間に皺を寄せてこちらを睨む。そのまま、自席に戻っていった。
俺みたいなΩは、少ない、のだろうか。Ωはきっと、誰にでも忠実で、逆らわない。そういった基本的な人間としてのカースト、のようなものが根強いと思う。前の学校の担任でさえも、俺の事を男娼のように扱っていたのだった。その淫乱、というレッテルを貼られた俺たちを、更生するための学習。もしくはより、αに従順になるためのプロジェクト、なのかもしれない。俺は先生の書く黒板の字を読みながら、そんなことを考えていた。αの為だけに存在するとしたら、俺たちは一体何のために生まれて来たんだろう。俺と手塚のように、βとΩは所詮何も生み出せやしないのだろうか。だとしたらこの感情は一体何のためなのか、誰か教えて欲しい。こんな手塚に対する感情を、消えさせて欲しい。じゃないと、俺は。
手塚も同じことを考えているのだろうか。
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