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回した腕に力を込める。お互いにきつく抱きしめ合って、まるで何年も会っていなかったかのように存在を確かめた。これは、夢じゃないだろうか。俺は今、本当に巧に抱かれているのか?
言葉を発するのも忘れて俺は、巧の匂いを嗅いで目を閉じる。
別れたあの日。
解いた手のひら。
まだ、前の様に戻れるのだろうか。
「…夢みてェ…」
俺の頬に手を当て、悲痛な表情を見せる巧。
コイツはどんな風にここまで来たのだろう。何を犠牲にしてきたのだろう。それを思うと胸が苦しい。
「高校は…お前」
「やめて来た」
「そんな…簡単に」
「別に。あの学校じゃなくたっていいし。今行かなくても、いつだっていいって思った」
「でも」
「大事なのは」
お前、と言って巧は照れくさそうに笑う。俺は戸惑いと嬉しさの間を行き来する。ここから出たい。でも…ここから出て、それで…俺たちはどうしたらいい?結局は俺たちは、外へでても籠の中の鳥なのは変わらないのではないか。むしろ、コイツに多大なる影響を与えてしまうかもしれない。それがとても怖く感じた。
「取り敢えず、このバイトの契約は一週間だから。一週間後の夜…迎えに行くから。必ず。ここから出よう」
「えっ」
「出ようぜ。こんなところ…お前は飼われている訳じゃねーだろ」
「お前に…もし、何かあったら」
「大丈夫だよ」
コイツの自信は一体どこから来るのだろう。
「…」
「俺の事、信じらんない?」
「ちが…う」
「じゃあ何で」
俺は黙り込む。すっかりココの考えに洗脳されかかっている自分が怖く感じた。外へ出てもー俺たちはうまくいかない、生活できないのではないかという思いが頭から消えなかった。
「怖ェの?」
そう、そのとおりかもしれない。俺は臆病だ。
今巧に何かあったら、やっていけない。
「…出たいよ…でも」
「一緒に逃げよう。ここから出てさァ。暮らそうぜ、二人で」
まるで夢の様に甘い言葉を囁いて、巧は俺の額にキスをする。
約束な、と言って離れる身体。
風の様にふわりと触って、もう次の瞬間には速足で去っていく。
俺は去っていく茶色の後姿を、そっと見送りながら空の青さに吸い込まれていくかの如く、そのブルーを身体に感じていた。
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