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はだけた胸を隠して、俺はああ、と返事をする。
「少しいいか?職員室に」
はい、と返事をして、俺は田島先生の後をついていく。一体何のことだろう。嫌な予感がする。そう、とてつもなく。
職員室の手前の廊下で、待つように言われる。掲示板には様々なポスターが貼られていた。
その中でも、「手洗い、うがい」と書いてあるポスターの、菌の描写がリアルで少々吐き気がする。トイレの後に手を洗わなかった場合の細菌数の比較がとても気持ち悪く、俺は目を背ける。
「待たせたな。隣に行こう」
職員室の隣にある、副校長室。そこに案内され、椅子に腰かけさせられた。
「悪いな。少し、提案というか…この前お前が言ったこと、なんだが」
田島は自分もソファーに腰かけ、俺に話しかけてきた。
「俺が言ったこと?」
「そう、ここからー出たい、ってことだが」
「俺は、もうどうでもいい」
「いや、話を聞いてくれよ、歩」
田島の悲痛な訴えに、俺は渋々話を聞く。お前を助けたい、という田島の表情は、真剣そのものだった。
「ここから出るには、αと番になる必要がある。お前にとって最もいいのはそれしかないと俺は考えている。誰か、いいαはいるか?俺が話をしてやってもいい」
「…冗談」
「堀でもいいぞ。アイツは口は悪くて手も早いが悪い奴じゃない。それも嫌ならー」
田島はゴクリ、と唾を飲み込み、言う。
「俺、だ」
「田島先生…」
「嫌、か?」
「俺はそんなこと、望んじゃいない。番になるのはごめんだ。俺は、あくまでも運命に抗いたい」
田島は悲しそうな顔をした。
「そう、か…」
「自分で何とかするよ。田島さんの力は借りない。…ありがとうございます」
頷いて、悲しそうに俺を見る瞳を、見ないようにして俺は部屋を出て行く。ドアの閉まる音、それと田島がソファーに座る音を聞きながら、俺は歩き出した。
俺はもうぶれたくない。
ここから、出るのだと自分に言い聞かせて、気怠い教室に戻っていった。
一週間、というのはあっという間だと思う。
毎日毎日、くだらない授業を受けていても時は経っていく。購買で見かける巧を横目で確認するだけの作業を、毎日行うと流石に肝が冷える。堀に見られていないかと気を張っているからだった。パンを売りながらあいつは見事にこの学校に溶け込んでいた。流石、というべきか、巧の適応力は俺には全くといって無い。
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