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「歩!無事か!」
後ろから声がする。田島だった。
「先生…」
「堀から連絡があってな…何処も怪我はないか?」
「大丈夫…だよ」
「良かったー。まあ、堀が居れば心配ないだろうけど。コイツは強くて…もう少し可愛げがあるとイイんだけどな」
わしわしと堀の髪を掴んで、かき回す田島。堀は嬉しそうに笑う。ああー。コイツは、もしかして…
「何ですか。見ないで下さいよ」
「なるほど」
「西岡さん、幸せにならなかったら、許さないですよ」
俺は二人を見つめた。
「歩…行くの…か…」
先生も知っているのだ。
堀が見ていたあの時のキスの様子を、報告し聞いているはずだ。
「ああ…ごめん…俺は、俺の思うままに」
「早く行っちまって下さい。せいせいすらァ」
「こら、堀」
堀は田島の大きな体の陰に隠れる。
そよそよと揺れる風が、俺の前髪を揺らした。
「そうか…」
残念そうな顔で田島は言う。
「いつか…いつか、また会おう」
「…分かった」
先生の辛そうな顔。でもどこか嬉しそうな顔。俺はこの二人に会えて本当に良かった、と思う。
「ほうら、お迎えですよ」
堀が言うその言葉に、俺は振り向いた。
そこには…
茶色の髪の毛。俺の恋人が、メットを持って立っていた。
「こんばんは」
巧の不思議に落ち着いた声に、俺は安心する。
こそこそと小さい声で巧は言う。
『なあ、この人何?先生?やべーんじゃん。どうすんの』
「歩、また明日、だ」
「西岡さん腹出して寝ちゃダメですよ」
二人は掌を翻し反対の道に歩いていく。
「ああ…また、明日」
俺はそう言うと、巧の手を取って走り出す。
「どうしたの、オメー」
「早く逃げよう。誰か追いかけてくるかもしれない」
巧は分かった、と言って俺の手を握り返す。
掌がとても熱い。そして、それは俺もおんなじだった。
巧のバイクは、噴水の奥の小道に停めてあった。
俺たちはそこまで走り続けて、息が上がっていた。
「大丈夫…?西岡」
「はあ、はあ…ああ」
最近、Ωだと気づいてからは体力が徐々に落ちている気がする。前の様に走れなかった。
「うん…大丈夫」
「じゃあはい、コレ。付けて」
メットを渡され、俺は巧のバイクのバックシートに座る。きらきらと光っていて、バイクが新品なのが分かった。
「しっかり摑まってて。飛ばすから」
「…うん」
ぎゅっと巧の胴に手を回す。
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